10月中旬(明日につなぐ希望の日々) |
隠れ家の目の前で子鰯の群れが飛び跳ねた。必死に逃げ惑うのが良く分かる。 ときどきバシャバシャと水面を激しく叩くのは大型魚の尾びれ。 「あっ スズキだ!」と叫んだのは地元の客人。 指差す方向には、スズキの群れが手に取るように見える。 まるで、スロモ−ションのように鰯を捕食するのを見てしまったから気持ちがおさまらない。 かねてから用意していたルア−を投げてみる。スズキのルア−釣りなんて初めてのこと。 さびき方が分からず、いい加減にリ−ルを巻いたつもりがオドロキだ。ルア−をめがけて2匹、 3匹とスズキが追いかけてくるではないか。 でも手前の浅瀬であっさりとUタ−ン。追いかけてくる様は、まるで編成された戦闘機のようだ。 結局興奮が冷めず、20分近くもキャステングを続けてしまった。 気がつくと客人の姿もとっくに消えている。 ここで諦めていては「漁師願望」の名がすたろうというもの。ルア−がダメなら別の手があるはず。 同じ疑似餌でもワ−ム(ソフトルア−)に気づかなくてどうする。 これこそ本命に違いない。この切り替えの素早さこそが明日の「一級釣り師」を約束しよう。 先日、漁師に教えてもらったばかりで記憶に浅いのが助かる。 ボ−トで引きづっていくやり方なので、エンジン音はスズキを脅かす。 だから引きづる糸をできるだけ長くしなければならない。 漁師から聞き逃したが、およそ30mぐらいだろうか。チラット見ただけなので不安もよぎるが…。 もちろん漁師をまねての手釣りで勝負。 夕焼けに染まる海原に舟をすべらせたのはその日の夕方。 筏の間を縫って東に西に。そして北に南に…。 ワ−ムは夜光性だから暗くても良い筈だが…。 耐えなくては…。 筏のロ−プに針が引っかかり何回も立ち往生するのも試練の内。 耐えなくては…。 ほとんど暗くなって海と空との区別がつかない。 海に落ち込む山が不気味なほど真っ黒に忍び寄る。 心の中もだんだんと暗く憂鬱になってきた。 明けて次の日の未明。 また一人そそくさと舟をだしたのは星がキラメク暗闇のなか。 昨日のオトシマエのけりをつけねばならない。 いつ掛かってもいいように、二重巻きに糸を手に巻く。 強い糸の引きで、うっかり手が切れてはいけない。スズキも1m近くになると強い引きで指先が チギレンとも限らんからな。 とにかく用心に越したことはないし。 東の空が輝き、やがて空も白んでくる。 朝日を浴びて山並みがさわやかに浮かび上がろうとする。 朝一番の漁船が走り出し小魚が水面を飛び、鳥が空を泳ぐ。みんな元気いっぱい希望の朝。 なのに心の中はますます暗く憂鬱になってきた。 |
「水潮だから食いがわるいだわ」と、釣具屋の店主。 「エサの鰯が定置網でごっそり捕られて、おまけに スズキもごっそり捕られてしまうんだわ。 そいでもって魚はおらんのやろ」 と、解説していただいのは釣具屋のお客。 地元の知人は 「今年はぎょうさん鰯の子供が沸いておって、 そいでスズキが腹一杯食って満腹さ。 そんなもんで疑似餌なんか目もくれんわさー」 と、なぐさめてくれた。 だれも「あんたのウデがわるいんだわー」と、言わない のがやさしい。 でも漁師だったらなんて言うだろう。 不器用でお世辞が言えないからからきっと本当の ことを言うだろうな。 | |
対岸の釣り人達。「どうですか」と尋ねると 「潮がわるいでなー」と、言うがク−ラ−の中は まあまあの獲物。 | |
愚妻の釣りは4年ぶり。 4年前の怨念がようやく収まったらしい。 愚妻の竿に強い引きがあってオタオタしていたもん から竿を奪いとったである。 結構大きなホウボウで、喜びを分かち合ったつもり だった。 当時のなりゆきをしっかり記憶していて、人の楽し みを奪い捕られたと今でも繰り返す。 そういう訳で、今まで釣りに誘っても乗ってこなか ったのである。 しかし秋の旬と言えばアジ。 脂の乗った大アジの誘惑に負けて竿を握ることに。 いつものポイントで、いきなり愚妻の竿がしなった。 一投目である。 泡を食ったのはボク。 とっさに手が伸びたが、4年前が頭をかすめる。 必死で気持ちを押さえたが、その時間の長いこと。 水面を割って出てきたのはグレ。 調子に乗るとシロウトは怖い。この後次々とアジを 釣りあげたからたまらない。 次の朝も簡単に誘いに乗ってくる。 釣れると竿を垂直に立てるのだ。 腕が疲れて竿を持てないとヌカス。 水平にするとモ−メントが掛かかるのは分かる。 でも、こんな釣り方を隣でされていたら調子が狂う。 いくらクッションゴムで鋭い突っ込みをかわしている とはいえ、こんな姿、「釣師の女房」のやることかネ。 結局この日も釣数に遅れをとった。 |
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「初日の夕暮れ」 ボクはカワハギと中アジ2匹 残りは愚妻 |
「次の日の早朝」 ボクは大アジ3匹と中アジ1匹 残りは愚妻 |
「次の次の日単独」 すべてボクが釣りました。 マゴチやヒラメのエサとして釣っ たのですが、大きなもので23cm。 肝心の釣果ですが聞かないことに。 鋭く歯型のついたキス2匹。 頭だけ残ったキス2匹… (ーー;) |