10月下旬(釣りは、お勉強もさせてくれる) |
夜の訪れはあまりにも早い。 つい先程まで風があったのだが、今は無風に近い夕方。 風が弱まったことと、海水が暖かいせいか、頬を生ぬるい風がなでていく。 真珠貝の洗浄作業を終え、もやいを解かれた船が少しずつこちらに近づいてくるのが分かる。 人の話声が少しずつ大きくなって聞き取れるぐらいになったからだ。 風に押され流されるままになっているのは、作業も終り後片付けと洗浄のためだろう。 二人連れのあまりにも陽気な話声に、一人夕闇のなかの孤独さを忘れてしまう。 どうやら取り逃がした魚の手応えを忘れらないらしく、さかんに悔やんでいる。 真珠貝の洗浄は、それに付着していた生物が切れ目なくバラマカレルから魚が寄ってくる。 大物が堂々と姿を見せることもあるらしい。 陽気な漁師は、作業を続けながら片手間に釣りをしていたのだが、つい釣りがおろそかになって バラシたのだろう。 多分大物だったに違いない、諦めきれずにいつまでも悔やんでいる。 後片付けが終ったのは、すぐ目の前まで船が近づいてきたとき。慌ててエンジンを駆け、踵をか えすように急いで立ち去った。 後に大きなウネリを二つ、三つと残すものだから、たまらなくボ−トがひっくり返そうになった。 人気の失せた海原は、やがて暗闇にスッポリ包まれる。 西日の沈むのは迫間(はざま)浦の漁村あたりか。背後に浮かぶ山並みのシルエットだけが残り、 漁村の灯りがくっきり浮かんできた。 |
明日の未明には帰らなければならない。 雑用に追われて今まで釣りの機会を持てなかった。 幸い客人が残して行ったエサがたっぷりあるし、 今夕を逃すと釣りの機会をなくす。ラストチャンスだ。 日暮れは5時過ぎ。取るもとりあえず船を出したのは 夕方4時過ぎの慌しさ。 それで、こうして短い日暮れを必死で海にしがみつ いているのである。 今回は前回に引き続いてまたまたアジ狙い。 釣れる時期に釣っておこう、という惰性的無策思考 だから悩まない。 でも、今回は新たな実験を試みることにしよう。 こんなセワシイ釣りタイムに研究心を絶やさないと ころが、「一流釣り師」と「バカ釣れ師」の分かれ道。 さびき竿を2本用意して交互にサビクのである。 ただやたらとサビクのでなくサビキ方に変化を与え 理想的サビキ方を探るのだ。片方は大きく上下に、 もう片方は小さく小刻みにといった具合に。 | |
五ヶ所湾の半分が見渡せます。 丁度隠れ家の対岸から南方を望むとこの景色。 左中に浮かぶのが鈴島。その左15mぐらいが アジの好ポイントです。 | |
もっとも、それだけでは「一流」を目指す者には不満が残る。もう一工夫が欲しいところと思って いたところに偶然が重なった。 持ち合わせのサビキ仕掛けが、片やピンク色のスキン、もう片方がグリ−ンの夜光バケ。 両者の比較も面白い。 さっそく釣り始めたのだが、居つきの群れが遠くへ去ったらしく時が空しく過ぎていく。 もうあきらめかけていたところに、ピンクにアタリがきた。♪アナタ マーツーワー どこまでも マーツーワ♪ のメロデイが自然と鼻からこぼれる。 それからは断続的に釣れるもののピンクのみで、グリ−ンは全く音沙汰無し。 ところが夕闇の気配が濃くなってきたころ、それは衝撃的にやって来ましたね。 ほっておいたグリ−ンの竿が激しく揺れたものだから、不意打ちにあったみたいなもの。 おっとー、入れ食いになってきたなっ! と、色めきだったのだが、どうしたことか、ピンクにあれだけアタリがあったのにピタリと止み、それ からはコトリともしなくなった。代わりにグリ−ンのみにアタリがきだしたからオドロキ。 それは予想もせぬ展開で、切り替えもここまでくるとお見事。 | |
夜光性サビキは暗くなるとキッチリトその役割を果たすこ とが、これで充分証明されよう。 だが、なぜ先程までグリーンの夜光サビキに魚の関心が 向わなかったのか、それも完璧に無視されていたのか。 そこのところが理解できない。 少しぐらいのアタリがあっても良いものだが、今まで経験 もしなかったことだ。 しかも、なぜ一瞬にしてこんなに劇的な変化が生じたの か、今もって不思議な思いがする。 このテ−マは今後、「釣り学会」の最重要研究課題となる べきだろうな。 「夜光サビキに触発されたアジの群衆心理」という題が フサワシイかもしれない。 なんだか、 「ピンクのネオンに触発された真面目中年ジジイの激情 迷走夜」に似ているような気もするが…。 海の生態の不思議に迫る。そしてそれがきっかけとなり 広く人間も含めた生命体の謎にも迫る。…たかが釣りな れど、その世界はやはり奥が深そうである。 邪心にもて遊ばれし「海と釣り」、尽きることなく…。 | |
今回は大アジは全く姿を消し、中アジばかりに なってしまいました。でも一番おいしいのでは。 |