年頭もキスから
久しぶりの知人が、やってきた。
一人で、それも年末に。
シャバの憂鬱さを嫌って、我が家に逃げ込んできたのだ。
なんだか、これからしばらくそういった「患者」が増えてくるんだろうな、と思う。

思えば2年ぶりになるかな、一緒にボート釣りするのは。
先回は、無口でボワーとした息子も同船して初のキスつりを楽しんだ。
父親ゆづりのやさしさとボケぐあいが、上手い具合にブレンドされていて素直だ。
ただ、気を使わなくていい代わりに将来はどうなるのか、一抹の不安を感じたもの。

知人は背が、とんでもなく高いのでボクと歩くと、大人と子供みたいに映ってしまう。
もし、青年時代だったら、絶対一緒に歩きたくないだろうな。
若い女の人は中身より外観で判断するに決まっているから…。
ただでさえ、酒とタバコにおぼれ血液の循環障害を来たしているのに、大男だから
末端まで血がきっちり行き渡らない。
従って、血行障害により手足が冷えるらしい。
足の指先に粘着型のホッカホカカイロを張り付け、さらに羽毛のズボンと服を嬉しそうに
羽織る。

「風がやや弱し」と予報では言っていたものの、沖に出るにつれ波しぶきは避けれない。
丁度、灯台を回りこもうとしているところに、大型船が猛スピードで目の前を駆け抜けて
いった。
過ぎ去った後にはとんでもない大波を残して。
波をかわすには、減速して船首を波に向けなくてはいけない。
ボートの船首には大男、ただでさえ重い。減速すると推進力が落ち、船首がさらに沈む。

 ザッバッーーン  
大男めがけて大波が正面衝突。
ご自慢の羽毛の服とズボンがあっという間に海水でずぶ濡れ。
大男の「ツイタテ」もあってボクはというと、全く無傷。
どっちかというと、大波を被る瞬間、すばやく大男の背中に隠れ敏捷性を発揮したのね。

その後どうしたかって言うと。
ボートに入り込んだ水をバケツで急いで掻い出し、引き返すことはしなかった。
ボクたち、デコボココンビは、もともと打たれ強くしぶとい。
なにせ、大男は2年も留年したおかげで、劣等感、挫折感、無力感、虚脱感、など数々の
辛苦をイヤというほど味わってきた。その上に、大男特有の血の巡り悪さも手伝う。
「ま、いいか」ってなもんで、
危機意識なんかとても鈍くなっている。

およそ半日、人気のない五ヶ所湾を寒さに震えながらあっちのポイント、こっちのポイントと
にっこりニカニカして釣り巡った。
パンツのなかまでジクジク濡れていただろうに…

日にち代わって、インターネットで知り合いになった夫婦がボートに乗ることに。
3ヶ月ぐらい前に知り合ったばかりなのに、はるか横浜からやってきたのだからオドロキ。
つくづく、時代が変わったんだなあ、と思う。
こんな寒いときにわざわざ来なくてもいいのに、春のうららかな日まで待てなかったらしい。
なんともありがたく、嬉しくなります。

期待通り朝方の風は弱そう。でも小さなボートに三人では動きがにぶい。
風裏に逃げ込んで、いままで釣ったことのないポイントで仕掛けを降ろす。
関東のキス釣りは東京湾口まで出るらしい。
でもあまり釣れないという。
小さなキスが水面から上がったときは大喜び。
ヨカッタ、ヨカッタ。
その内、女性の細腕がしなりだした。
こんな光景、近くで見ていて一番うれしい。
3年前に富山の友人一家がやってきて、おなじく細君
の細腕がしなった。
あの時は暑い夏だった。押し黙った真剣さが麦わら帽子
の影に隠れ、ただならぬ興奮が伝わってきたもの。
水面を割って出てきたのは大きなカワハギだった。

今回はなんだろうと息を潜めて期待して…そしてそれは
なんとも大きなフグだから笑えてくる。
どうりでてこずった訳だ。
女性の細腕に力がこもるときは、いつもワクワクする。
自分もその気になって、女性になって、少年になって
一緒になってワクワクしてしまう。
  大男とのデコボココンビによる釣果
 冬だというのにキスが釣れるんです。