5月(初夏)
庭仕事を途中で切り上げて、ボートを下ろした。
朝の5時からずっと休む間もなかったから、海の上に出たときはヤレヤレである。
日が沈むには3時間も残ってないから、ポイントの開拓など、そんな余裕はない。
近場にするか、遠くに行ってみるか、船を走らせながら迷っているうちに近場を通りすぎ
てしまった。
途中で引き返そうかと思うが、優柔不断な性格なので簡単に戻れないのだ。
バカン、バカンと波の船底を叩く音が、だんだん激しくなってきた。
ああ、こうなると原始的血が目覚める。
バウンドするたびに被る飛沫が温かい。もう、どうかして、ひっくり返ってもイイカとなる。
泳ぎが得意だから、イザとなりゃあ泳いで岸につくのはワケナイや。

……でも、そうなると船の回収が大変だろうなあ。
数年前のこと、小さな漁船が人影のないまま、海の真
中で漂っていたっけ。
でも、少しづつ前に進んでいるような気配。
船尾に泳ぐ人影を発見して、「なるほど」と思った。
泳ぎながら必死で船を押していたのだ。
きっとエンジンがエンストしたんだろう。
すぐに助けに行けばよかったのだが、すばやい行動が
とれず、しばらく「高みの見物」となった。
力尽きたら手を貸そうかなと、ココロの準備だけはして
いたが、さすが漁師だけあってシブトいのだった。
とうとう岸までたどり着いちゃった。
ヤワな都会生活者じゃあ、マネのできることではありま
せんね。
……だからボクも、一度ぐらい海に放り出されて試練を
受けないとダメかなと。
……そんなこと毛頭、考えてもいませんがネ。
雨上がりの朝の入り江
夜中に激しい雷雨でした。

さすが平日の金曜日の夕方となると、釣り船の姿がみ
えない。
波が次第に高くなると、天気予報が言ってたとおりだ。
今日は変則的な餌をもってきたから、さっそく試してみよ
う。
石ゴカイを1パックに、青イソメを半パック。
半パックなんて初めて注文したが、エサ屋さんがヒマな
ときは気前よく応えてくれることを知った。
干潮が午後5時ぐらいだったから、潮が変わり目のジア
イで、もう期待でニッコリである。
案の定、青イソメを垂らした置き竿が大きくしなります。
このヒトトキに比べて、無駄な歳月を一体どれだけ過ご
してきたことか。
凝縮されたバカ喜びのタイムイン!
狙いどおりの引きは、ズバリ赤いオチャカナかな?
2匹の真鯛です。爺さんと婆さんが
仲良く一匹づつ食べましたってさ。
続けて、またまたもう一匹追加。
期待通りの読みの深さ。
もう、こうなると気がフレテ、このオサカナ1本に狙い狂い
ます。

……3匹目を狙って、船をあっちこっち移動して、チマチ
マ動き回り、また元に戻ってきたりします。
きまって出戻りを演ずる我が身のオロカサ。
貴重な2時間が瞬く間に過ぎてゆくのです。
こんなときが一番情けない。
欲の皮がつっぱった人間の軌跡をみるようです。

日も陰ったというのに、とうとう3匹目のドジョウは表れま
せんでした。
手応えは、あったんです。しめて2回も。
それだから、止められなかったんですな。
「人間引き際がイカに大切か、それを、身をもって知る時
を持とう」。
……この後に及んでも、能書きを垂れてしまいます。

見てください!釣果は貧しいものでしたが、
地元のご婦人からいただいた野菜と果物の
山盛りの画像で、どうぞ口直しを。