8月下旬(闇の出会い)
大アジポイントの海底は、どうなっているのだろう。
オモリの着底時間の違いから、付近の状況がなんとなく分かっていたのだが
具体的にはどうなのか。
さっそく10年前に購入した魚群探知機(実際は海底探知機)で探ってみると、
なるほど相当なカケアガリである。
しかも途中に山があり、一番浅い頂上で深さが10mぐらい。
ポイント地点がおよそ13m。それから深くなって平らになったところで16mぐらい。

アジの腹を裂くと、2〜3cmの子イワシが詰まっていたりするのだが、きっとこの
ポイントは捕食される小魚にとっても、居心地がいいのだろう

一日目は、夕日が沈む寸前に竿が曲がった。
たて続けに5匹確保したので、あっさり引き上げざる
を得ない。
ボクの夕飯用に2匹、入り江の反対側に住み着いて
いる独身貴族に3匹、計5匹もあれば充分だ。
独身貴族は途中退職したお金で、5年前に中古の
別荘を購入し、残りの金でギリギリの生活を楽しんで
いる。
ボクより少し年上で楽天家だけど、つつましい暮らし
かたなので、いわば「援助交際」を仕掛けているのだ。

2日目は、女房親戚にオミヤゲ確保を約束していたの
で張り切って、エサも多目に用意した。
先んづれば人(魚)を制すだ、少しでも早めにと船を出
したが太陽の光がまだ熱く、山の稜線に沈むには一時
間はたっぷりとある。

週末にいつも見る常連の船が2隻、内1隻の若者たち
は小アジが釣れるたびにハシャイでいる。
こちらときたらアタリが全くない、なんだか群れが全部
向こうに行ったんじゃないかと思ってしまう。
ときどき大騒ぎするので覗いてみると、中アジらしきも
のが夕日に輝いて空中に舞っているではないか。
くやしい……。
一日目の食事です。ひとりだからもちろん自炊です。
トマトと葱は自家製ですから豆腐を除いて自給率
75%ぐらいかな。
アジは毎日食べても飽きないからイイ!
自給率が高いのも健全でイイ!
日本も見習え!

くやしいので彼らに背を向けてボンヤリ空を眺めたりす
るのだが、またまた彼らの大騒ぎ。
振り向くと恥ずかしいので、竿を上げて片手を上げたつ
いでに脇の下からチラリ。
釣れないときは、だれからも見られたくない。まして他
人のバカ釣れなんて死んでも見たくない。
逆に釣れ過ぎてウハウハのときはポイントを知られては
困るので、だれからも見られたくない。……でもやっぱり
見られたいなあー、困ったものだ。

やがて日もすっかり沈み、あたりは暗くなって2隻とも帰
ってホットしたが、釣れた獲物は小アジ4〜5匹。
こんなミジメな気持ちで竿を畳もうとは。
欲張って2本の竿を出していたから、なおさらココロが傷
つく。
グッタリして2本目の竿を片付けようとした矢先、突然竿
が水中に鋭く突き刺さったではないか。
やがてヘッドランプに映し出された魚体の眩いこと。
それからしばらくが、文字通りバカ釣れの夢のゴールデ
ンタイム。

いやはや、これだから釣りは止められない。
一寸先は闇というが、闇になって初めてその言葉の意
図にふれた。
暗闇からの贈り物
かあちゃん、またヨロコブぞ。
最近、上の娘もサカナを食うようになった。
今の時代に、消え細るトウチャンの威厳を
食い止めるにはこれが一番だよ。