12月下旬(完敗に乾杯)
舳先に繋いだロープを片手に、もう片一方の手は船外機のハンドルを全開にした
まま、ただいま北に向かって突進中。

北の風が急に強くなったので、引き上げてくる途中なのだ。
暮れも押し迫ってあと一日で新世紀を向かえる時に、最後の勝負にでたのである。
北の風をまともに受け、次々に襲ってくる三角波は容赦なく舟を叩くのだ。
座っていても、バカンバカンと波を打つごとに腰が浮き、そして激しく叩きつけられ
るから尾骨がくだけるんじゃないかと心配になる。

自分を失うとは、こういうことを言うのだろうか。
どうかすると暴れ馬にまたがっているような錯覚に陥って、たずな(アクセル)を
緩めようとしない。まるで狂喜のサタである。
訳もなく、「オリャー、オリャー」と叫び、舟にムチを打つように大声を出しながら突進
していくのである。
人気のない大海原で大自然とたわむれておれば、50過ぎの男でもムラムラと野生
化してしまうのだ。

およそ一週間あまりの休日だったが、五ヶ所に着いたときから風が強かった。それが
三日三晩続いて、四日目の夕方に風が納まって弾けるように舟をだしたのである。
しかし、アジはすっかり立ち去った後で延々と撒き餌を繰り返すだけだった。
しかもチメタイ北の風が体の芯まで凍えさせ、鼻水タラタラの情ない状況だったので
ある。
どうにか、マダイを一匹物するのが精一杯だった。

そしてまた風が強くなって、一日おいて、これが最後のチャンスになるはずである六日
目を迎えた。朝方に風が弱いが、そのうち強くなると予報していた。
思い切って湾口の外近くまで出たのである。
およそ水深が40mぐらい、20号の錘替わりに10号の錘を
ダブル付けで急場をしのぐが、肝心の音沙汰はなし。

岸寄りを探ってみるとデカベラが飛びついてきた。後はどこを
探ってもベラ、ベラ、ベラばかり。湾口だから海水も幾分か
暖かそうだ。
しかし結構、舟が流されて餌の動きが早いほうなのに、のろ
まなベラが追いつけるから不思議である。
青イソメの曳きつりで、あばよくば鯛などと、狙うこと自体が
バカだった。

遠く見回しても、アンカーで舟を固定してのグレ釣りが散見で
きる程度で、流し釣りしている舟なんて視界に入らない。
最後のチャンスなのに、時間がどんどん過ぎていく。
なすすべが見当たらない。
無為の時間が容赦なく過ぎていく。
やがて風が強くなってきたし、潮の変わりもとうに過ぎたしで、
諦めもついたのである。

せめて、このうっぷんをどこで晴らすか。
バカン、バカン、バカン、バカン・・・・白波との勝負も捨てたも
んじゃない。
こんなバカさ加減を残している自分も捨てたもんじゃない・・・
などと屁理屈こねて、21世紀に希望を繋ぐのであった。

20世紀の締めくくりを
メデタイもので締めくくろうと
入魂の作品です。
どうぞ、お笑いください