ラストチャンス

来客が帰ったあとの五ヶ所は寂しい。
この寂しさを吹き飛ばしすには釣りが一番。
明日が確実に大雨となると今しかないし、
経験的に、雨の前は大釣れすることを知ってる訳で
大急ぎで舟を出した。

連休中の最初で最後の釣りになるから後に引けない。
時間は夕方の6時少し前、でも海はまだ明るいのだ。

デカアオリが湾内に入っていると教えてくれたのは
エサ屋のオヤジ。
しかし狙いはキスだよ、と自分に言い聞かす。
アオリは様子見だけじゃけんね。
あれこれ仕掛けを用意し、あれこれ釣ってやろうと
欲ばっても結局
な〜も釣れんかった、なんてことが多いからね。

最初にポチャ〜ンとやったのがエギ。
本命のキスを差し置いてなんでアオリを狙ったのか。
分からんさ、ただのスケベ心よ、
エサ屋のオヤジの言葉がそうさせた。
夕暮れの貴重な時間がどんどん過ぎていく。

様子見にずいぶん貴重な時間を使ってしまった。
キス釣りに変更だ。
急いで巻き返しだ、
暗くなるとキスも数が出ない、焦るなぁ。
エサのイシゴカイがたっぷり残っている。
とうとう遠くに漁村の灯りが見え出した。
あぁ 年貢の納め時か。


ズシンと竿にのったときの手ごたえ、あれは忘れ
ようとしても忘れられないものです。
起死回生の瞬間でした。

この一杯でますます天狗になってしまいます。




帰りに信号灯を点けた漁船とすれ違った。
思い出したぞ、
いつも夕暮れにアオリイカを狙う船だ。
そうか、思い出したぞ、
今のアオリは夜に釣れる、とエサ屋のオヤジが言って
いたこと。