五つ子の魂 |
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ボクの両親は満州からの引揚げ者だった。 富山の市街地に落着いたようで、 家主が住むボロ家に間借りをしていた。 4、5歳のころだったろうか。 ちょうど妹が生まれる前のころ、 父は失踪したまま家に戻らず、母と二人だけだった。 母は鯛焼きの屋台を引いたり、甘酒の店を開いたりしながら なんとか生活費を稼いでいた。 そうそう、山奥のダム建設の飯場で、飯炊き女として働いた こともあったな。 子供にとって、母の苦労なんて分かりようがない。 恥かしいことに、今だに分かっちゃあいないんだよな。 そのころ電車通りの向かい側に駄菓子屋があって、 母に小銭をせびる日がつづいていた。 |
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ボクはひ弱で泣き虫だったのだろう、 近所を一人でほっつき歩いてたのを覚えている。 一人遊びにはうってつけの雑木林があり、 小さな小川もあって、水の流れに水草がゆれていた。 水がとてもきれいだった。 小魚が上へ下へと素早く泳いでいた。 きっと橋の上で、いつまでも眺めていたんだろうな。 やがて幼心に火がついた。 駄菓子やでタモを買った。 それを思いっきり川に沈める。 橋の上から素早く走る魚をすくおうという訳だ。 おそらく何百回となく失敗したんだろうな。 万に一つ、この世に思いがけないことが起きた。 タモに魚が命中したのだ。 覚えてる。いまだに鮮明な記憶だ。 タモの中に魚が跳ねていた。 家に一目散に駆け込んだ。母に見せた。 それから大家さんたちにも見せた。 母はボク以上に喜んでくれた。 あれから50年以上過ぎた。 カワイかった僕は、いつのまにか憎たらしいジジイに なった。 ボクは釣ってきた魚を急いで妻に見せる。 風呂に入っていようが、トイレに入っていようがお構い なしだ。 妻はいつも喜んでくれる。 |
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オカーハンが言いました。 「釣りたての魚を食べると、スーパーで買う魚は食べる気になれ ないね」って。 「釣りたてのアジの塩焼きはとても美味しい」って。 今回の五ヶ所に行くヨロコビはなに?とオカーハンに聞きました。 オカーハンはじっくり考えて答えました。 「そうね、満開のササユリを見ることね」って。 それから一呼吸おいて 「そうね、美味しいアジの塩焼きも食べれるかもね」って。 |