そぼく | |
天気があまりにイイので西隣の南島町に出かけてみることにした。 五ヶ所湾より東方は、観光ホテルやレジャー施設が揃っていて華やいだ感じがする。 それに比べ西方は何もないようだ。ただ一本の貧相な道路が海岸線に沿って、進む ほどに素朴さが増してくるようだ。 | |
南島大橋を絵葉書のように見ることができる鵜倉公園 の展望台である。早い昼飯を食いのんびりした。 そこを後に、贄湾を見下ろす道路を下っていくと、人間が 寝転がっているではないか。それも一人、二人、三人と 一定の距離を空け、一体何人いるか分からない。 肘枕で寝ている者もいて、うっかり車を走らせない。 驚いたように起き上がったりする。 崖を見下ろす雑木には鳥かごがぶら下っていたり、訳が 分からない。身なりからして都会派アウトドアー系では ないことは確かだ。 不思議な光景にぶつかったものである。思わず車を留め て近づいた。 「パチンコしてても銭が直ぐに無いようなるしな」 「きょうは仕事が休みでさ、暇つぶしだわさ アハハハ」 | |
展望台から西を望むと奈屋浦と神前湾が | |
何しているんですか?と一人の男に質問すると、恥ずか しそうに隣の人に聞いてくれと言った。 無愛想だなと思いながら、坂道を登って隣の人に同じ事 を質問をすると、先ほどの男が後から付いてきて、すばや く答えたのだ。 地元言葉だから正しく聞き取れないこともあって、話が 素直に飲み込めない。 ふんふん、なるほど、漁師さんが一週間に一度のお休み で、暇つぶしの趣味だということは理解できた。 小さな鳥かごに、ちっこいメジロが一羽、オスに限ると いう。 野生のメスがたくさん寄ってきてるから、自然と求愛の 声が出てくるのだと。 その鳴き声の響きがエエので、発声訓練に連れてくると、 照れくさそうに説明してくれた。 熊野灘を相手の漁師と、メジロの声を聞いてうっとりして いる漁師。 そんなこと想像できないから、ただ面食らうのみだった。 しかしおなじ漁師なんだよな。 | |
道沿いに、こんな光景がつづきます。 これぞ終局の余暇の過ごし方でしょうか。 | |
さらに車を先に進めていくと、妻が「アレ、アレ、絵みたい だわ」と指さした。 海岸に網を繕う老漁師がふたり。 人気のない明るい海辺に網がびっしり広げられている。 「すいませーん、写真撮らせてくださあい」 いきなりだったせいか振り向いてもらえない、もちろん返事 もない。 悪いかな、と思いながらデジカメを横から構えた。 作業の手は緩めないし、これはてっきり嫌われたと思った。 すると、ひとりの老漁師が素早く眼鏡をはずし、ポケットに 仕舞った。 おや?もうひとりの老漁師は曲がった腰をピンと伸ばした。 車のなかで観察していた妻が大喜び。 「カメラを意識してチラチラ振り向いてたの、くっくっくっ 素朴すぎて心が洗われるね」 |
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黙々と網を繕う寡黙な漁師。日本のふるさと。 |