誕生日会 |
年末に次女の仲良しグループが来ることになった。 毎年夏に欠かさずやってくる高校時代のグループではなく、 看護学校のクラスメートである。 二回生なのに五ヶ所が初めてだった。 「どうして今まで来なかったんだ」と、次女に問うと、 「ワシだっていろいろ忙しいんだからね」と、そっけない。 しかし彼女たちは来年は三回生、実習でもっと忙しくなるはずである。 そうなると、五ヶ所に来る機会は無くなってしまう。 「男みたいな性格だし、忙しいのは皆に好かれている証拠よ」 と妻が口を挟む。 とにかく娘の友人の多さと余裕のなさに、ほとほと呆れてしまう。 「それよりお父さんが、一番来て欲しいんじゃないの」 と何を言い出すか、方向違いのことまで言う。 痛いところを突くではないか。 娘からどの信号をどう曲がるのか、しつこく携帯に連絡してくる。 ワリカンでレンタカーを借り、交代で運転しているらしい。 だいたいどのあたりを走っているのか容易に想像できてしまう。 大騒がせなことで、結局は彼女たちの到着は夜になった。 「星がとてもキレイでした」 夜遅くまで起きていたのだろうか、眠足りない顔でニッコリ。 眩く遅い朝の到来だ。 「すいません、ドテラをお借りしていました」 声のするドテラ姿の娘さん。 ああ、そのドテラ、半年以上も洗濯してないのに・・・ 釣りから帰ってくると、彼女たちは近くの観光ホテルの温泉に出かけた後 だった。年末なだけに、はたして入浴だけ受け付けてくれるかどうか、事前に 足を運び確認しておいた。どうしてこんな親バカなことをするのだろう。 留守中に、地元の爺さんが牡蠣(かき)を持ってきたようだ。 台所には地元のおばさんが置いていった野菜が沢山ある。 食材は地元産で溢れている。 今夜はカレーらしい、夕食の招待を受けているから待ち遠しくて仕方がない。 カレーを作る組と、海辺の焚き火場で牡蠣を焼くグループに分かれて散った。 「いつも、こんな組み合わせなの?」 「いいえ、いろんなバージョンがあるんです。今日はたまたまこんなふうなんです」 さて、お待ちかねのカレーが運ばれた。 「あんまり煮込みすぎて具が分からなくなっちゃって・・・」 申し訳なさそうに言う。 とんでもない、俺なんて味覚能力がまるで無いし、ゴチソウしてもらえるだけで もうそれだけで幸せ一杯だ。 それにしてもなんだろう、このシャバシャバ、水性カレーみたいで、あまり経験しな い味だ。 さわやかな味覚と言えようか。 この経験、「感謝の味覚」としてけっして忘れることはないだろう。 |
「ジャ〜ン」 牡蠣グループが、大きなプリンケーキを二皿持ってきた。 一目で手づくりと分かった。 今日は、カレーグループの一人の誕生日だったのだ。 当人に気づれないよう、秘密裏に作っていたらしい。 祝福された娘さんは九州出身という。目がうるんでいる。 一口食べるのが精一杯だ。 その夜、彼女たちはヨットハーバーの電飾を見に行った。 そのあとも、疲れを知らない大きなハシャギ声が夜遅くまで 絶えることはなかった。 青年時代の最も輝くひととき、30年前の妻もきっと、そんなふ うだったんだろうなと思った。 アルバイトがあるからというので、みんな朝早く起きて、あわた だしく帰っていった。 帰りぎわに言った言葉が思い出される。 「夏に来たいです」 今から夏の来るのが楽しみだ。 |
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