未完成



闇が支配する山陰に、ひとつポツンと電灯が灯る。
夜釣りでもしていなければ気づき様がない。
別荘に人の気配を感じるのは夜。
夜の海に漂うと、確かめられるのだ。

ここは岬の先端。
ときどき釣りの手を休め、前々から気になってた方向を
確かめていたが、いつも暗闇だけだった。
しかし、今度は違ってた。

窓からこぼれる電灯の輝きを眺めていると、人恋しさが募って
しかたがない。
・・・どんな人だろうか?

会って確かめてみたい。


夜釣りのポイントから東の方向を見上げると、
ポツンと一軒が




翌日、西の日差しが強くなるころ、テクテク歩いて訪ねてみた。
車のすれ違いが出来ない道が、舗装から砂利道に変わる。
空を覆う木立のトンネルを抜けると、その家が現れる。

前にも来たことがあって、玄関口まで確かめてあるのだ。
一見して手造りだと分かる家は、増築を繰りかえし、
未だ、工事続行中の気配が漂う。
いろんな材料が、しかも半端ものが多そうで、それらが器用に
使い込まれて、とても人間臭いのだ。

だから、初めての訪問でもおじ気ない。
・・・の筈だったが、しかし
頑固で仙人みたいで、それに厳つい感じで、コワオモテで、
人間嫌いで、もしそうだったらどうしょう。
初対面というのは、いつもきまって緊張する。


家の中に案内された。
コワオモテの仙人のはずが、拍子ぬけ。
小柄で人なつこい笑顔からパワーが溢れます。
そう、家の造りそのもの。

もうすこしで70歳。
飲食店の店主を今年の春まで勤めた。
名古屋から店の休みを利用し、通いつづけて30年。
開拓民さながらの苦労も、聞き出せば一夜では足りない。
酒もタバコもやらず、道楽の全てを五ヶ所に注いだという。

斜面を利用して次々と増築を重ね、
その飽くなき熱情が愉快で・・・

コワオモテの仙人?

子供が娘二人というのが、私との共通点。
ホッとして話も弾む。
これからは仕事を気にすることなく、家造りに専念できると、
子供みたいに嬉しそう。

床下は痛みが相当進んでいる。
腐りかけた鉄骨の柱をコンクリートで巻いて、基礎の補強工事が
着々と進んでいた。
やはり、家の完成はまだまだ先のようだ。
まるで違うコードペンダント照明。
室内にアソビゴコロが充満



こちらは本格的なウッディハウス。
近所で一番近いお隣り。
ゆったりとした広いデッキもあって、室内も木の香りが満ち、
とても贅沢な造り。
昨年の暮れに工事が始まり、完成が春だった。
不思議な音楽が聞こえたので、様子を見に行ってみると
4〜5人の外国人大工が汗を流していた。

完成からすでに半年も経つのに、未だ人影を見たことがない。
庭の草も伸び放題。
主は忙しくて来れないみたいだ。