運命の別れ
吾輩は苗木です。
吾輩のご主人はエンゲイカです。
にわか仕立てのエンゲイカです。
それは後で分かったことです。

吾輩の運命は植木販売所で決まります。
どんなご主人にめぐり合えるか楽しみでした。

3年くらい前から、さかんにウロツキまわる客がいました。
値段の札を熱心に手帳に書いています。
マメな奴です。
半日いても飽きないようだし、
月に一度は来ますから、自然と顔を覚えました。

ウロツクのはここだけでないようです。きっと他所の販売所も
嗅ぎまわっているんでしょう。
すぐに買わないから分かります。
値段の比較を生きがいにしてるんでしょうか。
安けりゃあイイってものじゃないのに、
たまりませんね、最近、あのような辛気(しんき)臭いのが
増えてきました。

ときたま一緒の女性は奥方でしょうか?
ア奴は子供みたい嬉しそうです。

「当てようか、このサルスベリ、たぶん6,500円
  あのハナミズキは8,000円・・・どう? 」
値札を見ずして、言い当てようという訳です。
それが、ときたまピシャリと当たるから不思議。
奥方がたいそう驚いて感心しますから、ア奴は、ますます
調子にのります。

いつも店内をウロツイてるため、よく店員に間違われています。
作業服なんか着てるから余計です。
で、見知らぬお客に勝手なアドバイスするんです。
「ここは高いから止めときなさい、○○のほうが・・」 
始末が悪いです。


ア奴が買う決心がついたときは、たいがい奥方を案内して
きます。
財布を開けるのはいつも奥方。
無邪気な旦那の熱心さに、つい財布の紐も緩むようです。
ア奴は奥方の情(財布)にすがってんです。
ったく、情けねえ奴です。

おやっ 吾輩に近づいてくるではないですか。
今日は奥方も一緒です。
オイオイ 見逃してくれ〜


いきなりでした
軽自動車に無理やり積め込もうとします。
力づくで曲げられ、バリバリとへし折られ手加減なしです。
吾輩が生き物だってこと、分かってんでしょか。


4時間もかかる五ヶ所までの長旅となりました。
覚悟をきめましょう。
ところで、吾輩の名前はアオダモと申します。
まあ、ちょっと園芸に興味がある人なら一目おく、といった
ところでしょうか。
数が少ないから希少価値もうまれ、値が張ります。
理解できないのが
ケチなご主人が、なぜ手を出したかって、ことです。

それは、五ヶ所に到着してわかりました。
アチコチの販売所から運ばれてきた仲間が、仰山います。
ご主人は花木マニアなんです。
それも安物漁りってことが、直ぐに分かりました。
なぜなら、傷モノやヘタリモノがほとんどです。

それらに比べると、吾輩なぞは、上物といったところでしょうか。
ご主人の性格が分かりました。
無理に手にした上物で、背伸びしたかったのでしょう。


しかし、
先輩苗木たちは、みな元気がないようです。
どうしたんでしょうか?
聞いてみました。

「水は月に一度の配給で、あとは天気任せです。
ご主人が月に2,3日滞在して、ホースで水かけてお終いです。
夏は地獄、主人は暑さで動きません。スタミナがないので
苗木にまで手が届かないのです。
いままで生きてこれたことが奇跡です」

とんでもないところに来たようです。
主人の言うこと、
なんでも「自己責任」の時代だから、植えた後に枯れるも
生きるも苗木の生命力しだいだ、と突き放すのです。

おそろしい、これは苗木版の育児放棄といえましょう。
病気が不安になります。

10年以上前に植えたカキに スモモに ビックリグミに 
ブドウに キューイに サクラに イチヂク・・・があって
ブドウやキューイなどは実をつけたことがなく、
サクラは未だに花が咲かない、ということが分かってきました。
順調に育っているのがないってことです。

ああ、
大変なとこに連れてこられたようです。


岐阜県にある「日本ライン花木センター」です。
吾輩のふるさとです。
ここで運命の別れとなりました。

吾輩のご主人は、このほかに
 ・三重県桑名の「花ひろば」、
 ・愛知県稲沢市の「稲沢植木センター」、
 ・同県高浜市のフジウラなど
安物(値打ち)品を求め、東奔西走しております。



軽自動車ですから、大きなものは積めません。
欲の深いご主人ですから、無理とわかっていても
買ってしまいます。
とくに奥方と一緒のときは、無理します。
金だしませんから。








吾輩の先輩です。
5月に咲く白い花は見事というほかありません。
ご主人は単純ですから、花さえ咲けば何でもイイよう
です。
でも、花が咲かないと分かったら直に無関心となり、
頭から苗木の存在が消えてしまいます。
水やりなんかイイ加減となりますから。
そうなると、吾輩も生死の境をさ迷うことになるでし
ょう。

生きていくのは大変です。


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