やり直し
吾輩は苗木です。
吾輩のご主人はニワカエンゲイカです。


吾輩が五ヶ所に到着すると、主人はただちに穴掘りを
開始しました。
ガムシャラに掘り続けます。
加減というものが分からんのでしょうか、
必要以上のバカ穴になりました。

このバカ穴習性の原因は過去にあります。
さかのぼること半世紀、主人が工業高校一年のときです。
彼女なし、小遣いなしの退屈な夏休みがはじまったのです。
金を稼ぎたい一念で、隣村の土建屋の門をたたきました。
土方のアルバイトなんて無かった時代です。

建物の基礎となる穴掘り。ツルハシとスコップが渡されました。
どんどん掘って、掘って、掘って、掘り続けました。
少しでも役に立つところを見てもらいたかったのです。

やがてそれが、大きすぎたことに気づいきました。
どんどん掘った土を、どんどん埋めもどしました。
土方の親方は呆れて、ただ笑うだけです。
一緒に働いていた土方衆は、みな褒めてくれました。
休憩時間になって、アイスキャンデーが配られました。
その美味しかったこと、今でも忘れることのできない思い出と
なっているのです。

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バカ穴掘れば、認めてもらえる・・・今なお条件反射は続きます。
あれ以来、成長は止ったままみたいで、 
多感期にオダテると、後々まで遺産となって残ります。

さて次に、
穴にめがけて、腐葉土と草木灰をたっぷり仕込みました。
吾輩にとってこれ以上望めない贅沢。
養分たっぷりの土で、餌に不自由なく生きていけます。
やがて吾輩を穴に入れ、根のまわりを土で押し固めます。
いわゆる埋め戻しというやつです。
その後、たっぷり水を注いで根元が落ち着くというあんばい。
いやあー 上出来です。


これで終了、とはなりませんで、
埋め戻したあと、さらに根元に円形の堤防を築きます。
そして、たくさんの麦わらを根元に敷いてくれました。
乾燥防止のマルチング対策も完璧です。
いたれりつくせりです。
風対策に頑丈な添え木が打ち込まれ、散水して仕上げです。

でもこの散水にしたって、ハンパじゃありません。
雨水を貯めるための堤防ですが、大量散水が原因で決壊しま
した。
ただちに補修開始です。
動きが素早いから見ていて気持ちがいい。
ただ、
洪水のごとく散水しては決壊し、また補修し、また決壊するの
繰り返しで、イタチゴッコになりました。
体力をかなり浪費したに違いありません。

最初に抱いたいた不安は少し消えました。
主人は少しオカシイけど手抜きができない人、ということが分か
ったのです。

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吾輩が安堵の胸をなでおろした矢先でした。
いきなり引き抜かれました。
ズポッと、一瞬のことでした。
ポッカリあいた穴は、泥でグチャグチャになっています。
添え木の杭は、抜けないのでへし折られました。
なにもかも力まかせで、爆風のごとくです。

「パニック障害」?
園芸知識の詰め込み過ぎが原因かもしれません。

1mほど離れた所に、また穴を掘り出しました。
新たな居場所が見えてきました。
引越しのようです。
発作的ですから、落ち着く間もありません。

どうも、場所の選定にミスがあったみたいです。
さんざん迷ったあげく決めた場所だったのに、またすぐに
新たな迷いが生じた。
移動距離わずか1m、体勢に影響ないと思いますが。

おかげで吾輩は、移植で傷だらけです。
主人の疲労も極限に達しました。
やり直しは倍以上に疲れるものです。
それなのになぜでしょう?


「・・・どこかおかしい」
最初の植栽が終わって、ひっかかりが生まれたようです。
「・・・このままで 終わらせる訳にいかない」

ま、エンゲイカですから、コダワリをもつのは仕方ありません。
世間では、妥協しないのがプロフェッショナル、
頑固さは職人の証、と言われてます。

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植栽のレイアウトはエンゲイカにとって命です。
何をどこにどう植えたらいいのか。
庭の基本をなすのは樹木です。
まず樹木の選定とレイアウト、これが庭の性格を左右する。
と本に書いてあります。
主人は何度も読み返していました。

自然ぽい雑木林は今、注目の憧れです。
作為を感じさせない、自然風の庭を目指したい。
主人は、この路線に惚れこんでいます。

でもねえ
植えたり抜いたり、さんざんイジクリまわして自然風とは・・・
吾ら苗木にしてみたら、身がもちません。
かりに一歩ゆずって、
自然風に適うなら、少しの痛みもガマンできましょう。
すっかり根付いた後より、植えて間もない時期のほうが受ける
ダメージも少ないです。

何はともあれ、計画はとても大切。
計画さえしっかりしてくれば、イジクリもなくなります。


しかし、
土地を追加するたびに、計画があっさりと変わってしまうとしたら。
本を読んで感動するたびに、計画を変えてしまうとしたら。
なんどでも変更、なんどでもやり直しができると、
信じ込んでいるのなら、
吾運命や、これから先どうなるのでしょう。



シダレヤナギの位置が気にかかります。
左にある池とのバランスがよくない。
それで、50cm移設することにしました。

こんなこと、だれも気にしないと思いますが、
頭のフィルターが目詰まりしてるから、どんな些細な
懸念でもひっかけてしまいます。

ですから、気に済むまで穴掘りをつづけます。



園芸道具というより土方道具に近いです。
主人は土方の洗礼を受けており、一通りの儀式道具が
揃ってないと不安なんであります。

でも、この物置も今年中に取り壊されることになってます。








バカ犬は、敷地のアチコチに
片足をあげて小便をかけまくります。

飼い主のバカ娘のバカ親父は、敷地のアチコチに
穴を掘って、苗木を植えまくります。

いずれも
敷地の縄張りに励む点では、たいした違いはありません。



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