図書館

 廊下を歩いた突き当り、階段を上った2階に教室が並びます。
一番端の「教室」に入ります。

部屋の中に入ってはじめて、図書館なんだと納得します。
ここは三重県立南伊勢高等学校南勢校舎。
我が家から歩いてもせいぜい30分の距離。
地域開放型の図書館にふさわしく、蔵書の多さに驚きます。
しかも、親切な女性司書さんもいらっしゃいますから。

この学校、生徒数がおよそ130名。
全生徒数がですよ。
私が通っていた工業高校は、同学年だけで500名を超えて
いましたっけ。
団塊世代だから、さっさと卒業させてね、それで高度成長に
ひた走る企業に、わんさかと供給するってかんじかな。
それゆえに、ここの生徒数の少なさは、羨ましくさえ思えて
きます。



ところで机の上に置かれたズタブクロ(かばん)、ですが、
授業の終わった女子生徒たちが部屋に入るなり
ドカーンと放り投げてね、ファッション雑誌をめくってましたっけ。
とても健康的でヨロシイのです。





図書館は大好きです。
本は読まなくても雰囲気が好きです。

若いころからいろんな図書館に行きました。
本を買う金が無かったことが一番の理由です。

それから次の理由は、図書館で本を読んでいる人たちが
とても勉強熱心で、そんななかに紛れ込んでいると、
いつかボクだって賢くなれるんじゃないかと、そんな
期待をもてることでした。

そして3番目の理由ですが、ステキな文学少女に出会えたら
いいなあと、淡い想いが膨らんでいたからです。
どうも案外、これが一番の理由だったかもしれません。


思い出してみましょう。
ふるさと、出町図書館や戸出図書館は、中学時代に、
高岡古城公園にある図書館は、工業高校時代に、
大阪天王寺公園の図書館は、新聞奨学生時代に、
富山県庁公園の市立図書館は、受験時代に、
名古屋鶴舞図書館や栄の県立図書館は、夜学部時代に、
名古屋徳川園に隣接の東図書館は、子育て時代に利用しま
した。

振り返ってみると図書館は、思い出がたくさん詰まってんだ
なあ、と気づきます。
かつて多くの図書館は、オイルステンが染み込んだ木の床で
した。
歩くと床鳴りがして、ほどよい緊張感に包まれたものです。
天井が高く、図書の匂いがプーンと鼻につき、おごそかな
精神修養の場でもありました。



ときどき通っている市立図書館の今の様子です。
昔とずいぶんと変わりました。
幼児の騒ぎ声が聞こえます。
若い母親の甲高い叱り声が聞こえます。
歩くとキュッキュッと鳴るサンダル音も聞こえます。
携帯電話を手にする中高年の大声が聞こえます。
本棚の陰でじゃれ合う若い男女の会話も聞こえます。
館内は騒々しく、なんとも悲しい状況になっています。

だから最近では、
図書館は長居すべきところじゃねえな、と思うようになり、
私の図書館はもはや過去にしかないのだと、そう気づいた
のです。

ところがまさかでした。
まさかこんな五ヶ所で、
こんなに静かで、のんびりした図書館に巡り合うとは
夢にも想わなかった。


近い将来の姿が目に浮かんできます。
婆様から渡された弁当を持って散歩に出かけます。
終着駅は図書館。
途中道草して、知り合いたちのご機嫌をたずね、たっぷり
一時間の歩きを楽しみます。

お昼前の図書館は、常連の先客がいるかもしれません。
グランドを眺めたりして、のどかな時間を過ごします。
静寂を破るのは放課後の生徒たちでしょうか。

ひょっとして、
少しの限られた時間を生徒たちと一緒に読書、なんてえことが
できるかもしれません。

五ヶ所にまたひとつ、宝物を発見しました。

地元の作家の本が揃えてありました。
これぞ他の図書館にない、地元図書館ならではの
存在価値です。



灰谷健次郎の本がたくさんあります。
都会の図書館でも、こんなには揃っていませんね。
ここの図書館、あなどれないのでありますよ。



まあ、なんですね
ワタクシの目下の趣味なんてのも気になります。
釣り、お花、お茶の本を棚から引っぱりだして
みました。

欲を言ってはいけません。
これだけ揃っていれば合格です、どうせ文字を
読まず、写真や絵しか眺めないのですから。




図書館の窓下はグランドです。
グランドの向こうには海。

窓を開ければ、野球やサッカー練習の大きな声が
飛び込んできます。
ああ今は、高校にいるんだなあ、と改めて思うのです

海からの照り返しと潮風が包む図書館、です。


................... 蔵書がたっぷり。
しかも、新刊書も想像以上に多いのです。

不思議なのは、若い女性向けの雑誌が大変多いこと。
男性向けは全く見当たりません。
きっと、女子生徒のリクエストを反映しているんだろうね。

だとしたら、私もそのうちリクエストしてみようかな。
いつか、「年金生活者」とか「痴呆の克服」とか、そんな雑誌が
並ぶことがあるかもしれないし。