戦場カメラマン ................


戦場カメラマンは、国境紛争地帯だけが仕事場ではない。
テレビ局のバラエティスタジオだって仕事場になるようだ。

しかしやはり、戦場カメラマンは
紛争がある所にこそ存在意義があるのではないか。

五ヶ所湾にはイザコザが絶えない。
境界線がいつも揺れている。
我が家の敷地が、取材対象にされてもおかしくない、と思うのだが。



今は晩秋の11月末です。
苗植え付けふさわしい時期ではありません。
なのに、このように沢山の苗を五ヶ所に持ってきたのは
春まで待ちきれなかったのです。

それと、シカの被害がないと、確信していたからです。
敷地の周囲に張り巡らしたネットのおかげですね。

熊本の友人たちからプレゼントされた花ショウブ。
それに、
あちこちのホームセンターで買い求めた花の苗。

それから、初めて試みた苗床。
種から育ててみたいと思いました。
河原ナデシコと矢車草、
妻がマンションのベランダで育てたものです。



夜中に五ヶ所に着きました。
荷物を降ろし、花の苗を降ろして、まず敷地の見回り。

懐中電灯で、大事に育てているものを確認します。
まず、
「ギボウシよし ハナトラノオよ〜し ○○よ〜し 」 てなぐあい。

でも今回はそうはいきません。
なにもかもやられています。
一年前の悪夢の再現です。徹底的に食われています。
シカの糞が、いたるところに撒かれています。

シカ侵入防止ネットを調べると、今まで見たこともない大きな
穴が、開けられていました。
場所はまさに正面入口。

ネット以外にも侵入対策はいろいろ用意されています。
しかし警報センサーは、今やすっかり慣れたようで、
食事チャイムに替わろうとしています。

5分ごとにON、OFFを繰り返すラジオのオドシさえも
喫茶のBGMぐらいにしか聞こえないのでしょう。

ピカピカ光る回転灯だって、シカ御用達店のネオンサイン
に変わり果てました。

ネットの噛み切りは、今に始まったことではありませんが
その度合いは日増しにエスカレートしています。

朝まで待てません。
暗がりのなか、ヘッドランプを照らし延々と穴の開いた
ネットの補修をしました。














やれやれこれで安心と眠りにつき、しばらく後のことです。
用足しに、部屋の電灯を点けた途端

庭先で 「キッ キッ 」
鋭い動物の鳴声です。
すぐに分かりました。
これは、鹿が仲間に危険を知らせる鳴声です。

条件反射で庭に飛び出しました。
ヤツラは凄い勢いで竹薮に逃げ去ります。
ネットが張ってあるから袋のネズミだ。
全身震えがきました、ヤツラと正面対決です。


が、いません。
消えました。
よく調べると、これがまたどうしたことか。
二重張りにしていたネットが、大胆に噛み切られいます。
うかつにも二重張りの安心さで、見過ごしていました。

朝、明るくなるのを待ってネットの補強です。
二重張りがダメなら、追加して三重張りだ。
どこまでも付き合うつもりです。


鋭く踏み込んだ足跡、2ケ
植えたばかりの花ショウブが一夜にして
このありさま

おもわず涙をこぼしてしまうのです





次の日の夜中
今度は、動物的感で飛び起きました。
睡眠時間が少なくても、五感は研ぎ澄まされています。

こんどは
「キーーン キーーン 」
何度も聞いている鳴声です。
発情期のオス鹿が発する声です。
庭先で鳴いています。

玄関まで忍び寄り、思いっきり外に飛び出しました。
「ガオー ガオー」

ありったけのデカ声で叫んでやりました。

不意をつかれたオス鹿、
激しく木立を揺らせながら、一直線で走り去ります。
逃げた先は昨日と同じ竹薮。

「ザマーミヤガレ」
頑強な三重張りネットでヤツは袋のネズミだ。
震える足に力を込め、竹薮に向かって突撃しました。

が、いません。
ヤツはどこにもいません、消えました。
静か過ぎて、聞こえるのは自分の足音だけ。

よくよく調べると、これがまたどうしたことか。
ネットはまったくの無傷です。
もしや、飛び越えたか・・・

朝、明るくなるのを待ってネットの点検です。
やはり、どこにも噛み切られた跡がありません。

敷地反対側の道路沿いの崖が崩れています。
足で蹴ったため、赤土がむき出しになっています。
これで侵入路が判明しました。
そして、ここでもネットを乗り越えたようです。

メスよりも体が大きいオスの跳躍力は、計り知れません。
間違いなくネットを乗り越えたのです。

メスはネットをスパッと噛み切り、
オスはネットを軽々と乗り越える。

メスは一族で侵入を繰り返し、
オスは、ハーレムの牙城とせんとす。



ああ、ワタクシは、
これからいったい、どう生きていけばいいのでしょう
黒いネットは、写真ではよく見えませんが
高さがおよそ1.8m。
白いネットは、高さが1m弱で二重張りです。
白、黒合せて三重張りとしました。

噛み切る高さは、ほとんど50cm前後の
ところですね。

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