路地散歩(平成30年早春)

                       
           移住してから行ってみたかった所がいくつか残っています。

           花粉症のバーヤを残し一人寂しく(楽しく)出かけました。



町内にあって、我が家から一番遠くの漁村が
古和浦です。

移住する前から温めていた訪問先でした。

過疎地の漁村はどんなところだろうか、
ワクワクしながら狭い路地を歩き回りました。

写真の右側のコンクリートの巨大壁は津波防止堤防。
集落からはこの壁のおかげで海は見えません。

話し声に気づき、近づくと老婆が二人。

よそ者への警戒心が解けば、きっと仲良く
なれるでしょう。

「同じ町内に移住して7年目になります」
とアピールは欠かせません。








空き家が目立つ路地を歩いといると、
過去への想いに駆り立てられます。

例えばこの建物、かつては銭湯でした。
廃業して20年以上経つようです。

自宅に浴槽が無かった時代、
みんなが押しかけて、どんな賑わいを
みせたことか・・

あちらの路地で立ち話、こちらの路地でも
立ち話。

歩く先々に出会いがありました。

骨太な古老がニッコリ。

「疎開でここに来てまもなく、昭和19年に
津波があってな、
そのとき近所の人たちに救われたんや

今から20年前、60歳のときだった。
この土地のやさしさが忘れられず
都会から引っ越してきたんや」

老人の原点は幼きころの体験。
それは人々の温もりとやさしさ。

脳裏をよぎる思い出に、
涙を浮かべ、しきりに手でぬぐうのでした。








ニラ浜展望台から古和浦湾を望みます。

この海はふる里の日本海側にも繋がっています。

ああ、そうなんだ、
ワタクシも同じなんだと思いました。

最近ひんぱんに、幼いころが思い出されます。

ふる里の田園は、いつか近所のおばちゃんたちに変わり
そして決まったように、

大きな歯ぐきに、寸胴のモンペ姿に、大きな笑い声・・

堰を切ったように、
目頭が沸騰するのです。









ここは新桑窯集落です。

窯という名の由来ですが、
昔、塩を作るために海水を窯で炊いたことから、
窯と付くようになったようです。

南伊勢町には窯とつく地名が他に6カ所。
ほとんどが不便な海岸ベリにあります。

塩を作り、生活の糧としたのは
戦いに敗れた平家の落ち武者。

落ち伸びた先は、幾多の苦難が待ち受けて
いたことでしょう。

海辺に住みながら漁業権も与えられなかった
彼等の生活ぶりはどうだったのか、
そのきびしさは想像を超えています。










地図でみると道路を挟んで、
30軒ほどの民家が建ちならんでいます。

運よく日向ぼっこの人たちに出会えました。

どんどん人が少なくなって
人が住んでいるのは10軒だけだとか。

あとはみんな空き家と空き地、
寂しくないのだろうか。

「ここは一番よ、他に行く気はしないわ」

「買い物は移動販売車が来てくれるし、
みんな仲良しだから、そんなに不安は・・ないねえ」

春ののどかな昼下がり、
老いた猫が私のそばにきて居眠りを始めました。














空き地に1本、満開のしだれ梅。

平家伝説の地はいずこも人里から離れた所。
迫害から逃れても、最下層の身分が待っていました。

どこに逃れても地元との軋轢は避けて通れなかったでしょう。
へたをすれば皆殺しにあったかもしれません。

南伊勢町の海岸線には、他に比べこのような窯集落が
不思議なほど沢山あります。


それは何を意味するのか、

別の言い方をすれば、地元住民との折り合いが
首尾よく運んだということなのでしょうか。


これは自分の想像ですが、
この地域の貧しさと、人間のやさしさに
その鍵があったのではないかと思われます。

貧しさは争いを産みますが、
片方では助け合いも産むでしょう。


漁村を訪ねても、窯集落を訪ねても
人を威圧し権勢を誇る屋敷が見当たりません。

どの家も質素で慎ましく、過去何百年に渡り、
仲良く助け合ってきた暮らしぶりがうかがえるのです。












窯集落を離れ、
一ケ月前の山行の帰りに入った温泉
(紀伊長島ふる里温泉)にまた来ました。

ここに来るまで寄り道して、錦湾に建設された
大堤防の上にいました。

出来立ての巨大堤防の上は見晴らしもよく
風通しも良すぎます。

おなじ団塊世代の漁師さんと立ち話していたから、
体が冷えちゃって温泉が待ち遠しかったこと(笑)

で、漁師さんたちと何を話していたかというと
まあ、他愛のないこと。

少ない年金の愚痴でした。










温泉の帰り道、古和浦の干物屋さんに寄りました。

このお店の干物は塩分が少なく、我が家の
トップニーズとなっています。

購入は近くのスーパーですが、本店に寄るのは
初めてなわけで。

ひもの三五七やさん。

ちょっとの寄り道なのに、またたく間に仲良くなった
ようです。

一話ごとに土産を渡され、
マンボウの干物に、マンボウの肝和あえ、
それにサメの燻製と・・

お金を払ったのはアジの開きだけとは(苦笑)


我が家のオープンガーデンには何が何でも
来てもらうことをお願いしました。







TOP