対岸から我が家を
みた景色です。
文章とあまり関係
無いかも。
空がぬけない

「まったく、やることが青年の時と同じだな、まるでちっとも成長してないのだか
ら情けない!」

ミカン畑を縫うように続く小道を、上に上にと、ひたすら登ってきたのであったが、
当然道は、やがて途絶える。
正規の登山道を無視したばっかりに、とうとう樹林帯に紛れ込んでしまった。
引き返すのもシャクだから、とにかく頂に向かってどんどん真っ直ぐに登ればな
んとかなるさと思ったが、後がいけない。
そして、最後には鬱蒼とした薮こぎにあい、行き手を阻まれてしまった。
長い間、往生しているのだ。

切りぬけるのに、せいぜい20分ぐらいだろうと予想していたのに、すでに40分は
優に過ぎている。のに、空が抜ける気配がしない。
鬱蒼とした樹木が、めざす上に連なるばかり。
簡単に登頂するより、手間暇をかけ苦労したほうが、登山らしくなってていいだろう
と、自分に言い聞かせる。
が、なにしろ登山なんて久しぶりである。
雑木を跨いだり、くぐり抜ける毎に、ズシンと疲れを覚える。

「 ミカンの花が咲いている ♪ 思い出の道 丘の道 ♪ はるかに見える青い海 ♪」
歩きはじめて口ずさんでいた歌も、今はもう過去の鎮魂歌。

山頂近くまで伸びているトロッコレ−ルの残骸が、往時のミカンにかける逞しさを物
語っている。
きちんと組まれた石垣が、ああ、ここもミカン畑だったのかと確かめる事が出来よう。
荒れ果ててしまったそれらを眺めていると、次第にしみじみとした気持ちになってく
る。

登って来る途中に、やたらと感電用電線柵が張り巡らされていた。
野生の猿がものすごく多いのだろうか。
猿以外にも猪も多いと聞いたが、食獣には結構手を焼いているんだろうなあ。
実りの秋口になると、「バッカ−ン バッカ−ン」と、切れ目なく爆裂音が入り江に反響
して、初めて聞く人はビックリする。
これも、食害を防ぐための威嚇音だったなんて後で知った。
はじめてこれを耳にしてとき、狩猟の鉄砲撃ちの激しさに相当ビクついたものだ。
昼でも、夜でも絶え間なく轟き渡るのだから。

とにかく頂上は、しばらくお預けである。
見通しのきく所で小休止。
ふりかえると我バラック小屋が、樹木越しにかすかに見える。
「想像以上に、イイトコロじゃないか…この山は 」
途中に桧の樹林帯もあったし、ミカン畑やブッシュ帯もあったし、これに少しでも岩峰帯
が加わると、とても変化に富んだ本格的登山ができるのに、チト欲張りか。

さあ、あとひとガンバリ。
ますます雑木が密になって行く手を阻むあたり、「ザ、登山」の雰囲気が濃くなってきた。