お婆さんの家は
こんなふうに、
ノンビリしたところ
です。
欄の花

小さく縮んでしまった体に、人なつこい笑顔が小さい顔からはみ出している。
海に面した土地を譲ってもらった老漁師のお婆さん。
お爺さんは他界してもう4年になろうか。 お婆さんは80歳を超えているのに
元気そのもの。

お世話になったお礼と、オババの笑顔を見に年に一度の訪問。
息子夫婦を早くに亡くし、幸薄い境遇と聞いていたが微塵にも感じさせない。
「行きはよいよい、帰りは恐い」 と言う訳ではないが、帰りはいつも両手に
お土産の山で気がひける。
あれ持って行きんさい、これ持って行きんさいと、家に入ったり出たり。
せわしく動きまわって、つぎつぎと縁台に土産物を並べる。
断るのも疲れて、ミカンに、海草に、手製のこんにゃくにと…結局、いろいろ
持たされる事になる。

あまりの気遣いに気が滅入るが、歯の抜けた元気いっぱい皺くちゃのオババ
に会うと、いつしか年に一度の楽しみとなった。
お爺さんと一緒に働いた真珠小屋での遠い遠い昔話を語るとき、なつかしさで
皺の中に目が隠れてしまう。

今まで気づかなかったが、玄関脇に、簡素で古風な屋敷と不釣り合いな花を
たくさん見つけた。
かつては鶏小屋だったのだろう、その中に欄の花が所狭しと並んでいる。
温室を真似て透明なビニ−ルシ−トが張られているが、あまりにも古くなって
遮光シートみたいになっている。これでは日の射りも弱いだろうに。

「趣味なもんでな」と、見上げた笑顔がお茶目顔。
欄に手をやり次々と、嬉しそうに、いとしげに撫でていく。
一つの鉢に、無愛想な花が欄とせめぎあうように咲いていた。
欄のような華麗な花とは、とても似合わない野花なので、不思議そうにしてい
ると。

「どこからか種が飛んできてさ、せっかく根づいたもんでな、粗末にできんとさ、
そいでこうして仲良く…… 」

少し恥ずかしそうに笑って説明してくれた。