完璧な間に合
わせ。
でも遠方に真
珠筏が。
芝で昼寝して
います。
練鯛

今日も真珠筏に、「ちぬ釣り」する人がいる。
以前には見かけなかった光景だ。
はたしてあの「老黒鯛」は無事だろうか。

遠泳を試み対岸に向かって泳ぎ出したものの退屈になったのと、少しシンドク
なって引き返して来た途中のこと。
真珠筏につかまり休憩しているとき、ふいと水の中を覗き込んでみた。
「おお! これは」
魚影の気配に、休憩なんてしておれない。
期待に胸躍らせ、息を整えるのももどかしく一気に潜り込んだ。

無数のロ−プに真珠貝が数珠つなぎに吊るされ、海中に降り注いでいる。
その間を縫って、無数の黒鯛が悠々と泳いでいる。
時折、鱗がキラッ キラッと光る。
黒鯛は警戒心が強いので、一定の距離を置いて様子をうかがっているみたいだ。
きっと、水中に漂う「裸の人間」なんて初めて見たのだろう。
仲間のふりをして脅かさないよう静かに、さらに近づいてみた。

「ウワッ 」
呼吸が激しく乱れ、あせって海水を飲み込むところだった。
思わず、特大のギョロ目と合ってしまったものだから、ひるんでしまったのだ。

のったりとした巨体はどす黒く、尾鰭はところどころ白い骨が露になるほど欠けて
いる。
幾たびの百戦錬磨を乗り越えてきたのだろうか。
満身創痍でありながら、この堂々ぶりはきっと一族の大将だろう。
チラチラとギョロ目で睨みをきかしながら、油断もなく臆することもない。
年を重ねて威厳を射ってるみたいで…悠然と、いぶし銀のごとく。

このように、年にふさわしい「立ち振る舞い」が、生き物達の当たり前の姿なのか
もしれない。
でも、そうなりたくても出来ないのが小生。
年を重ねるに従い、ますます軽くなっていくみたいで。
人の目を射抜く老黒鯛の眼光は、だらけた我が身を諭しているようで…。
生きし者の師として、ありがたく記憶に留めようぞ。


いつまでも、達者でいてくれい。