夏の海は暑けれが
暑いほど水の中は
快適だ。
予期せぬ

去年も一昨年も海に潜らなかったから、今年は是非実行しなければならない。
気力の衰えを自覚してきたから反発せねばならないのだ。
そもそもガキのころから水に潜って遊んできたし、サカナを捕って夢中になっ
て、そのおかげで脱線せずに今日に至っているのだから、ここにきて止める
訳にはいかない。

いわば生きている証なのである。人の気配を感じない山奥とおなじように、水の
なかにいると、自分だけの世界に浸ることができる。
たやすく幼稚に戻れて、たやすく自分を失ってしまう、あんばいがイイのだ。
こんなヨロコビを味わうことなくサッサと夏を過ごしてしまうと、それは自分にとっ
て堕落と同じではなかろうか。
いくら周りから「斜陽」者と言わても、「人間失格」だけは避けたい。

そんなことで3週間前に庭仕事の疲れで潜る機会を失ったこともあって、かなり
気合を入れ、海に向かったのである。
しかもそのまま潜らずに、ボートを出して大アジの釣れたポイント近くまで来てし
まった。
庭先の波打ち際のほうがよっぽど透明度が高いのだが、気持ちが張り切ってい
るからドンドン先に進み、途中で止まらないのだ。

ボートから後ろ向きにドボーンとひっくり返れば、そこはいきなり別の世界。
いるわいるわ、魚があちこちに、しかも何種類かの熱帯魚も混じって色彩の鮮や
かなこと。
ウミタナゴがやたらに多い。ベラも負けずに多い。
大きな岩場を回り込んで、グレの集団に出くわした。
一斉にこちらを凝視する習性は、ナニカ別のものを連想してしまう。
そうだ、テレビでよく見るのだが、鹿の群れが見知らぬものに一斉に様子をうか
がう仕草に似ている。
数秒おいてサット逃げ去るとこなんか、そっくりでかわいいものだ。

タイの群れにでも出会いたいなあと期待してうろつき回るが、ここでも磯焼けが
激しく、白くなった磯にガンガゼだけがやたらと目につく。
がっかりして帰るのもつまらないので、ボートを近くの磯場に移して、もう一度
潜ってみた。
湾内は全体に潮通しが悪く、磯物が育たないと思っていたので期待なんかハナ
カラしてない。

だから、大きなサザエを発見したときは泡を食ったなんてものじゃない。
よく見ると、なんと岩の隙間にアワビもいるではないか。
絶対に生息してないと信じていたサザエとアワビだから、見た見た!と言っても
だれも信じないだろう。
持ち帰るのも気が引けたが、動かぬ証拠品として少しだけ、いただくことにした。
それにしても海は得体の分からんことが多すぎる。
絶対会えないと諦めていたことが、好奇心を少し上積みしただけで叶えさせて
くれるのだから海の不思議さに改めて感動するのだ。

海はしたたかで、やっぱり大きいなあー。