10月初旬(大漁は切れ目なく、飽きるほどに)
仕事のケリもついたので、まとめ買いの休み。
でもこの夏、蒸し暑くて何にもしなかったツケを払わなければならない。
釣りをするにも連日の雑用に追われて思うようにできない。
いつでも船が出せる。しかしその安気さが釣りの機会を逃すことになる。
そろそろ気合を入れてポイントの数を増やそう。そしていろんな魚にチャレンジしなければ。
湾の外に出るのも今や遅し、いつまでも湾内で満足していちゃ発展しないのだ。

さあ魚信を確かめに舟を出そう。竿がしなれば血液が逆流し鼓動が堰打つ。この瞬間を味わう
ために釣り師は労苦を惜しんではいけない。
へいぜいから仕掛けの準備に励み、潮と風を読み、捕食のイメ−ジを練り、日々鍛錬を積む。
幾度の惨敗にもめげず、挑戦の意欲を失わない。次第にしぶとさを身につけ、たくましく生きる。
時にはまぐれで大物を釣っても決して自慢することなく、雨の日も風の日もひたすら求道の人と
なろう。
このイタワシイ姿にこそ、やがて「芸」を育み、「術」を宿す。

「芸術は爆発である」 というが 「釣りは爆発である」 のほうが正しいかもしれない。
釣り上げた魚は新鮮故、隣人に分け与えれば感動を呼ばずにはおかない。
芸術となにが違うかと問えば、釣りはただ「生臭い」だけ。この生臭さが芸術の「気取り」に
遅れをとることになった。
しかも坊主の「無殺生」の呪文も無視できない。

ルネッサンス(宗教改革)は急がねばならない。世が世なら「日陰者釣り師」に光が射し込み
正当な市民権が与えられよう。そしたら大手をふって釣りにいけるのだ。
会社は仕度金を払い、釣り休暇は2、3日などとケチなことを言わず2、3年。しかも給与は保証。
女房、ガキは釣り師の家族であることに鼻高々。政治家も、医者も、弁護士も釣りを知らねば
エバレナイのだ。

でも釣り師は謙虚であらねばならない。知らない人にはそっと寄り添ってやさしくその道を教えよう。
釣りの心は海のごとく広いのだから。そして凪の海のごとくやさしいのだから。
だが不正、横暴にたいしては怒涛の海のごとく怒ろうぞ。
…ああ、ボクはこんな時代に釣りをしたかった。
「みんなが一生懸命働いているのに、あんたはのん気に釣りなんざやって気がとがめない
のかねえー」 と、言われなくて済むのに…。


スロ−プの縄梯子を取りかえることにした。
前のものは間隔が長すぎたので短くすることに。
ついでにロ−プも太いものに取りかえる。
パイプに穴をあけ、ロ−プを通し結び目をとる。そう
するとパイプがづれない。
結び目を解いたり、また結んだりしてパイプ間隔を
等しく調整する。結局ひとつの結び目を4〜5回
ぐらいやり直す。
完成するのに2日以上もかかってしまったから
お笑いだ。
しかも、最後の仕上げとしてロ−プの端を固定する
段階のこと。新品の鉄筋杭を打ちこまなくてはいけ
ない。
干潮で海底が露わになるのを待ってその作業に
とりかかるつもりだ
しかし、一向に潮が引かないではないか。
さっそく潮見表で確認すると、とっくに干潮が過ぎ
ている。
ゲッ!ずばり小潮の日である。明日、明後日と長潮、
若潮と続きますます状況が悪くなる。

泣く泣くパンツ一枚になって…

海に向かって伸びていく先端にロ−プを留める
鉄筋杭が打ち込まれています。
手前のパイプが長いのはボ−トをひっくり返して
洗浄するためです。

先回大アジを釣ったポイントへ一直線。
はやる心を押さえて仕掛けを入れます。
「いきなりだからなあー」と過去を思い出していたら
いきなり竿が海中に突っ込みます。
「ウグッ、ウグッ グヒィ」 喜びで声になりません。
水深10mぐらい。ですから引き込みは相当なもの。
先回の失敗を学習してクッションゴムを取りつけて
いるので、けっしてバラさない。
1時間もたたないのに、12匹も釣ってしまう。
余裕で辺りを見渡せばヨットハ−バ−の帆柱がまば
ゆい。

いつでも船が出せると思えば、引き上げるのもあっ
さりしたもの。
明日もあるから、惜しくはないのだ。
隠れ家からヨットハ−バ−まで歩いて5分。
途中、樹木が刈り払われたところで
見下ろすと。

結局延べ3回釣りにでかけた。
あまりにも早くポイントに着きすぎるので拍子抜け。
仕方ないので、しばらく沖に向かってひた走り、
気持ちを落ち着かせUターンして戻ってくる。
いままで遠くへ遠出しても釣果に恵まれなかった。
その余韻がいまだに残っている。今の驚異的な釣り
とはあまりにも大きな落差。その落差を埋めようと
遠出のセレモニ−をやってしまうのだ。
しかし大漁は3回とも一時間以内でケリがついてしま
った。まことにあっけない。
一時間に2〜3匹が理想的なのだが。それは贅沢と
いうものか。
でも、あまり簡単に釣れてしまうのもどうかなあ。
青年時代の異性狂いに似て、フラレテモ、フラレテモ
突き進んでいく気持ち。果てしないロマン。
そんなものがないとなあ…。
30cmぐらいのアジが入れ食いなんて
怖くなっちまう。