9月中旬(苦節2年のヨロコビ)
「2年ぶりです。」
興奮を押さえきれずに口走ったのは、大きなアジが竿をひったくってまだ余韻が残って
いるとき。
今日の出来悪後輩は実にうれしそうにしている。
気づいてはいたが、家造りを手伝わせていたので「まともな釣り」ができなかったらしい。
たまのボ−ト釣りも客人の御用使いだと心から楽しめなかったのだろう。
やはり「イダイなる先輩」が一緒だと、勢い気分がのってこようというもの。

「今までの苦労は、今日のこの日のためだったんだよなー。」
背中ごしにつぶやくのは当てつけばかりとは言えないかもしれない。
愚痴をこぼさないばかりか土方仕事を嬉しそうにこなしていたものだから、そんなにも
耐え忍んでいたとは知らなんだ。
苦節2年。ようやくつかんだかに見えた幸せも、あと僅かとはお気の毒。

今年の冬からは、車置き場に面した階段整備の設計に入るところなのだ。
頭は使わなくても、体力を要求する人夫がどうしても必要となる。
本日は飴入りのエサをたっぷり与えておこう。。。


夜明け前に舟を出して、先回大アジを釣ったポイントへ
一目散に直行。
本日はアジに狙いを定めサビキ釣りのみに徹する覚
悟。まだ完全に解けてないコマセを急いでカゴに詰め、
海底めがけて沈めます。
さおを大きくしゃくって、やんわり止めたときが勝負。
さあ「食らいつけ」。さあ「食らえ」。さあ「食ってちょうだ
い」
釣れないときの空念じ、繰り返すほどにやるせなくなっ
てきます。
「あっ」…
「なに?これ」…
ステンレスカゴにはエサがひとかけらも残っていません。
今日のこの日のために新たに買い求めカゴなのに。
「カゴの底がナンカ大きいような気がせんか?」
「…やっぱり」
鈴島を望む一級ポイント。グレ釣り師がみえます。
どちらの竿が先に曲げるか競争だい。

一つでは心細かったのでお互い、2個づつ買うほどに
周到な準備をしたのに。
1個570円は高いと思ったもののバカスカ釣れれば安
いと腹をくくったのだが、なんとオキアミ用であった。
もうアミえエビではカゴの目が大き過ぎて用をなさない。
アンカ−を上げて出なおしである。

思い起こせばこのようなトンマなことを、この美しい子
弟愛コンビは幾度繰り返してきただろうか。
打たれ強さは定評あるところ、新たに買い求めたカゴに
エサを詰め一安心したのは2時間も後のこと。
ぽつぽつと上がるのは手のひらサイズの小あじばかり。
結局大アジは見ることなく疲れ果て昼前にリタイヤ。
出来悪後輩が前代未聞のパ−フェクト釣りを。
もちろん子イワシに限るが。

魚をさばいた後シャワ−を浴びすっきりした。
残暑が厳しく汗をながした後のビ−ルはウマかばい。
心地よい疲れと酔いで大の字になってバタンキュ−。
海風が肌をやさしくなでていく至福の昼下がり。

さて、西に太陽が傾きかけた夕マズメに丁度いい時間
に目が覚めた。
朝より夕マズメの方が時間的に余裕があり期待も高ま
る。
しかし海上では貴重な時間がどんどん過ぎていく。
ぐうぜん通りかかった地元の漁師から貴重な情報を
さずかった。
もうあたりは暗くなって、西の山波がかすかに明るさを
保っているだけで、おまけに風もないので神妙な雰囲気。
二日目の朝、イイ形のキスが竿を曲げます。ふだん
見向きもしなかった場所だったから驚きました。

さっそく教えてもらったポイントでコマセを撒くこと数回。
いきなり竿が海中に突っ込みましたね。
ドバ−ンと舟の中にすくい上げたのは待望の大アジ。
バタバタと暴れる様に狂喜余って、思わず出来悪後輩
をどついてしまう。
「ボサボサせんとオマエも釣らんかアー!」
くるときにはたて続くけに来るものだ。
目も血走ってくる。
「ボケたれが!ハヨ釣らんかアー!」
一匹釣る毎に罵声を浴びせられる出来悪後輩の目に
キラリと光るものが…暗くても分かってしまうのだ。

悪態罵声に耐えようやく一匹釣り上げたときには、
さすがに嬉し涙がこぼれたようだ。
黙りこんで、いつものハシャギがないから分かるのだ。
結局、後輩は唯一、この一匹だけ。
25から30cmクラスがそろうと嬉しくて、このように
キッチリと並べてみたくなります。


昼間に陰干しにしておいたアジをさっそく夕飯のおか
ずに。
電子レンジでチーンしたご飯と、インスタント味噌汁が
今宵のメニュ−。
明日に備えてキスの仕掛けを作っている間、出来悪
後輩が夕食の世話をしてくれる。
焼きあがりの色をチェックしなければならず今だに手が
抜けないが、かいがいしく働くのではありがたい。
こんがり狐色に焼きあがったアジでさっそく乾杯。
「幸せか?」
…「はい」
「どれくらい?」
…「………ウッ」
「口で言えないくらいか?そうかそうかそれはよかった
!」
「幸せは言葉で説明できないよな。。。 」

…「ホ、ホネがのどにひっかかって」
一日目の朝に釣った小アジを直ちに陰干しにします。
鮮度抜群で店頭のものとは比較になりません。
出来悪後輩が嬉しそうに持ちかえりました。