太郎くん
2〜3週間も会う事もないのに、太郎君は
きっちりあいさつにやってくる。
とても野生とは思えないほど。

自然豊かな証だろうか、まわりは静かで
聞こえるのは鳥の鳴き声だけ。

作り立てのバルコニ−なのに堂々の踏み
いれである。
やあ−太郎君 おひさしぶり

すぐ上に、道路をはさんで民家がある。
そこには、薄汚れた犬が飼われており、
たぬきにとって恐怖の生き物。
犬が「ワン」となくだけで、全身の毛を逆立
て怒涛の勢いで逃げ去ってしまう。

だから、太郎も小生も犬が嫌いだ。
隣の犬にかぎって。
犬のいる方向には油断をおこたらない

こうして、昼間から律義にあいさつにやって
こられるとにわかに情がつのる。
「タロウさん 元気だったかい」
「…」
「俺もなあ 都会にいると結構しんどいこと
もあってなあ…わかってくれるかなあ」
「…」
「ところで、かあちゃんは元気かい。最近姿を
みせんが赤ん坊の世話でたいへんなのかい」
「…」
「そうか そうか…元気でなによりだ」
「…」
こうしてしばらく世間話など楽しんでおかえりに
なられる。
「おっさんも元気だったかい」