車置き場から。 交流センタ− と、右後方の 山は竜仙山 |
処女峰 かねてから狙いを付けていた山である。 入り江を挟んで正面に対峙し、海から頂まで余す所なく見ることができる。 海に裾野を広げている山並みの中にあって、ひときわ高くかまえているのが 竜仙山。 山腹の緑濃い地帯はみかん畑だろうか、…確かめたい。 とにかく頂からは五ヶ所湾が一望できそうだし、期待は満ち溢れている。 五ヶ所に来る度に、あの山腹をぶち抜いたトンネルを抜け出した途端、白く 輝く海が飛び込んでくるからだ。 はたして、頂から我がバラック小屋が見つかるだろうか。… 青く霞む、たおやかな稜線を仰ぐ度に、いつも夢を膨らましてきた。 たかが知れた標高402mの低山だが、その眺望はけっして日本アルプスに 劣らないだろうと。 なにしろ、足元にリアス式海岸を一人占めできるのだから。 すでに3年間も暖めていた楽しみである。 時間をかけて、じっくり熟成させたワインと同じ。 時は熟した。 満を期して、今、決行の日がきた。 靴紐をしっかり結わえる。 久しぶりの 「ザ.登山」となる。 だれも誘わない単独の登山者、「孤高の人」に。 そして、自分にとって未知なる「処女峰」へのあこがれ。 この意気込みに、迎え建つ竜仙山も不足はなかろう。 歩き出した矢先のこと。 チョキン 、チョキンと木を剪定する音が、ミカン畑から聞こえる。 そして、こずえの間から女のやさしい歌声が、潮風にのって運ばれてきた。 一瞬、ラジオかと間違うほど上手なので、うっとりと聞き惚れてしまう。 きっと若い夫婦の、うたかたのひとときなのだろう。 野暮な聴衆は消えるに限る。 のどかな夫婦連れに気づかれないよう、忍び足で通り過ぎた。 それにしても出足から予期せぬ拾いもので、イイみやげ物ができたぞ。 歩は、メロディ−の余韻をひきずって、先を進むも軽やかだ。 |